理系でもビジネストランスレーターになれるのか?

ビジネストランスレーターとは?

みなさん「ビジネストランスレーター」という言葉を聞いたことありますか?私は恥ずかしながら最近知ったのですが、その定義を一言で表すと『ビジネスとデータサイエンスの橋渡し』を担うポジションのことです。

ご存知の方も多いと思われますが、データサイエンティスト協会ではデータサイエンティストに求められるスキルセットとして『ビジネス力』『データサイエンス力』『データエンジニア力』の3つを挙げています。

図1:データサイエンティストに求められるスキルセット

この3つのスキルが偏っていると、データサイエンスをビジネスに活用することが難しくなってしまいます。例えば、データサイエンス力やデータエンジニア力がある人でも、ビジネス力が不足していると以下のようなケースに陥ってしがちです。

  • 顧客の課題を把握しきれない
  • 分析をしたがいいが、そこから得られる示唆やどうアクションに繋げればよいかをうまく伝えられない
  • 分析やコーディングに必要以上に時間をかけすぎてしまい、スケジュールに遅れが出る

だからと言って、この3つ全てを完璧に身につけた人材になるというのは現実的ではなく、市場にもそのようなハイパーデータサイエンティストはほとんど存在しません。

『データサイエンティスト』という職業が流行して数年経ち、様々な大学にもデータサイエンス学部が設立されている昨今だと、3つの力のうちデータサイエンス力に特化した人材がビジネス市場にどんどん増えてきているのかなと思います。

企業がこのようなDS特化人材を採用し、データ分析専門部署に配属されるケースを考えてみましょう。営業や人事などの他部署から「〇〇のような課題があるから、データ分析やAIで何とかできない?」というフワッとした依頼が降ってくることがあります。

分析者は、そのフワッとした依頼に何とか答えるために何かしらのアウトプットを出すのですが、このような状況だと「見方がよく分からない…」「凄そうだけど現場では運用できない」というような感想を持たれてしまい、課題解決に貢献しきれないといった結果になってしまうことが多々あります

これは、現場とDSの間に知識の断絶があるのが原因です。現場は当然ビジネス知識は豊富にある一方、データサイエンスに関する知識は基本的にありません。逆に、DSにデータサイエンス力はあってもビジネス力が足りないと、現場が使えるアウトプットを出すことができなかったりします。

このようなお互いの不幸を回避するために、ビジネス力とデータサイエンス力(場合によってはデータエンジニア力も)を一定身につけてた、現場とDSの橋渡し役が必要になります。これがビジネストランスレーターです。

文系人材はビジネストランスレーターになれる

データ分析人材になる。 目指すは「ビジネストランスレーター」』という書籍では、ある日突然データ分析チームにアサインされた一般の社員へ向けて、『ビジネススキルはあるがデータ分析の経験・スキルは全くない人』(=『文系人材』)が、データ分析人材となり、データ分析プロジェクトを成功に導くための方法が紹介されています。

[木田 浩理, 伊藤 豪, 高階 勇人, 山田 紘史]のデータ分析人材になる。 目指すは「ビジネストランスレーター」

データ分析という行為は、それ自体を行うことではなく、分析結果から得られる示唆を何らかのアクションにつなげることがゴールになるべきです。そこを考えず、依頼内容を深掘りしなかったり雑にAutoMLに突っ込んだりしてしまうと、プロジェクトが失敗に陥ってしまいます。

このような失敗を避けるため、本書では5Dフレームワークという考え方を提案しています。これは分析プロジェクトを以下の5ステップに分割し、各ステップをひとつずつ丁寧に進めていくことでプロジェクトの成功確率を上げていくための手法です。

  1. Demand:相手が分析結果を使って何をしたいのか、課題にどのような背景があるかをしっかり理解した上で、分析の方向性を明確にし、相手の合意を取る
  2. Design:どんなアウトプットを出すか、どういった仮説を検証するか、手法は何を使うかをあらかじめ設定する
  3. Data:目的のためにはどんなデータが必要か、使用が非現実的なデータはないか、他部署にそれらのデータを抽出してもらえるかを検討した後、データを入手する
  4. Develop:使用ツールの選定やデータのチェック、データ分析を実行した後、その結果をストーリーとともに提示する
  5. Deploy:データ分析の結果を現場で継続的に活用してもらうため、データ抽出や加工、ダッシュボード更新などを自動化し、多くの人が参照できる環境をつくる

このフレームワークに則ることで、

  • 分析プロジェクトがPoCで止まってしまう
  • 分析結果が現場の感覚に合わず、受け入れてもらえない
  • 経営層がAIに過度な期待を持ってしまう

といった事態を回避しやすくなります。

また、社内のデータ分析人材教育にも、この5Dフレームワークを以下の例のように活用することができます。

  • 新しく分析組織を立ち上げるときは、その組織の機能・役割を明確化しそれに注力する(=Demand)
  • いつでも質問できる環境をつくる、トライ&エラーを許容するなど、メンバーの心理的安全性を担保する(=Develop)
  • 分析メンバーが組織の壁を越えやすくなるよう、相手部署のマネジメント層に呼びかけて協力してもらう(=Deploy)

これらを手順を踏むことで、データ分析の知見がないいわゆる『文系社員』でも、データ分析人材やビジネストランスレーターになることができる、というのが本書に書かれていることです。

理系がビジネストランスレーターになるには?

先述の通り、データサイエンス力に特化したDS人材がますます増えていくなかで、実際のビジネスとDSの橋渡しができるビジネストランスレーターというポジションの需要もますます高まっていくのでは?と個人的には考えています。

そうなると、DS特化人材の中から、ビジネストランスレーターとしての立ち回りを所属組織に求められる人も一定数出てくるのだろうと思います。

では、こうしたDS特化人材(いわゆる『理系人材』)がビジネストランスレーターとしての役割を担えるようになるには、一体どうすれば良いのでしょうか?

この問いに対する答えの一つとして、「現場の声をしつこいくらいに聞く」があるのかなと思います。

事業会社のDSであれば分析依頼をくれた部署の方に、分析受託会社のDSであればクライアント企業やその企業の営業担当の方に、普段の業務や業界特有の慣習、具体的な課題と理想の状態などについて徹底的に質問します。そうすることで、現場やクライアントが本当に求めているもの、自分達が出すべきアウトプットが自ずと見えてくるのかな、と。

先の『5Dフレームワーク』でいうと、最初のステップであるDemandにウェイトを割くことが、ビジネス力が不足している理系人材が、トランスレーターのポジションを担うために特に大事なステップとなります。

逆にDataやDevelopステップは、理系人材が得意とする領域なので、文系人材よりもスムーズに実行できるでしょう。
ただし、モデルや精度にこだわり過ぎるあまり、本来のゴールを見失わなうことがないよう注意は必要です。

まとめ

本記事では、データ分析人材になる。 目指すは「ビジネストランスレーター」』を参考に、

  • ビジネストランスレーターとは何か?
  • 5Dフレームワークについて
  • 理系人材がトランスレーターになるには?

について紹介しました。

結論としては、「営利企業に身を置く以上、ビジネストランスレーターだろうがデータサイエンティストだろうが、一定のビジネススキルを身につけないとダメだよ」ということになります。

近い将来にDSバブルが弾けた際には、トランスレーターのポジションが担えないと、超専門的な知識を持っている一部の人を除いたほとんどのデータ分析人材は、市場価値がなくなってしまう危険性があります。

今後『ビジネストランスレーター』という呼称がメジャーになるかは分かりませんが、トランスレーター人材になれるよう、私も日々邁進していきたい所存です。

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